東北ツアー記③〜青森弘前編〜

GOOD-BYE,UNDERWORLD

GOOD-BYE,UNDERWORLD

この日は朝起きたときから胸騒ぎがした。
今日はなにかとんでもない事態が起きてしまうような・・・。
ドキドキとはちがう。ハラハラするこの感じ・・・。
嫌な予感がする。
そしてそれは悲しいことに的中してしまうのであった・・・。


セッチュー号(レンタカー)での移動を終え、弘前に着くと外はすっかり
冬の気温。やはり北の街なだけあって弘前はものすごく寒い。
あなどって薄着で行った自分を後悔しました。
会場のマグネットに入ると、ストーブがたいてあります。
その風景だけで心温まりました。
東京じゃ10月にストーブをたくなんて考えられないもんなー。
同じ国に住んでいながらも、こうも生活習慣が違うのか、ということに
少し感心しました。
そしてリハを終えて、ぶらり弘前探索。
とても素敵な街です。
親しい友人、CREEPSの竹内君にも会いに行きました。
彼も元気そうでなによりでした。


そんな感じでセッチュー弘前はスタート。僕の出番は4番目でした。
トップは植木君。
この日の植木君は、彼の持っている全てのポテンシャルを吐き出すような
最高にエンターテイナーなライブで会場は大盛り上がりに。
やばい。
そして続くはBABY&CIDER。
この日も特別にハッピーなライブで会場はすっかり和やかな雰囲気に。
超やばい。
そして狂犬キングブラザーズの登場!
この日初のバンドだったこともあり、待ってましたといわんばかりに客席はヒート!
ロックンロールという化け物に会場は包み込まれ、狂気とともに会場は熱で覆われていた。
超超超超やばい!やばすぎる!
だってさ、どう考えたってこの面子の中で僕がトリ前なのはおかしいでしょ!!
僕がキングブラザーズとLINKの間にはさまれるのはおかしくない!!??
弾き語りだよ?どうやって空気を作ればいいの?
それにさ、弾き語りのライブとしては先に植木君がMAXな事をやっちゃってるし、
和やかにせめようにもBABY&CIDERが先にそれやっちゃってるし、
ロックにせめようたって、キングブラザーズが作った空気に勝るものを
弾き語りの僕が出せるはずが無いし、
どうやたってコレは不利ですよ!!!
淡々とマイペースにやったところでお客さんの誰の印象にも残らない事は
目に見えている。一体どうすればいいんだ・・・どうすれば・・・。
刻々とそのときは迫る。
僕の頭はパニック状態。
そのとき僕の頭の中はパチ−ン!!と真っ白になりました。
そしてステージへ。
そして僕が第一声に発した言葉は・・・
「今日はロックはやりませんよーーー!!皆さん、ロックをやらない準備はいいですかーーー!!」


シー−−ン・・・。


なんでこんなことを言ったのか自分でもさっぱりわからない。
会場はドンが5個くらいつくくらい引いている。
そんな客席を見た瞬間、僕の頭はさらにテンパり、すっかりショートしてしまいました。
もう、完全に壊れた。
僕は目の前にあるマイクを掴み取り、それを口にあてて「ドン!タッ!ドンドドンタッ!」
と口でリズムを刻み、
「さあ〜ヒップホップを始めますよお〜っ!!!セイホー−−オ!!」
とヒップホップにありがちなコール&レスポンスをおもむろに始めました。
無論、そんなコール&レスポンスに答えてくれるような余裕は客席にはありません。
とにかくもう、あっけにとられていて、お客さんの誰一人として状況を把握できて
いなかったのでしょう。
見る見るうちに引いていく会場・・・。
僕は生涯、こんな引いている会場を見たことがありません。
でも始めてしまった以上、引き下がるわけには行かず、
僕はコール&レスポンスを強引に続けます。
そしていよいよ僕がラップをしなくちゃいけなそうな雰囲気になったとき、
僕はふと思いました。
「ラップなんて出来る訳ね−じゃん・・・」
そして僕の口からは「俺は東京生まれだ!!!!!!!!!」のワンフレーズが発せられました。
その一言で後は続かず、僕の人生初ラップはたったワンフレーズで終了しました。
東京生まれなのは事実ですが、だからなんだ?って話です。


シー−−−−−−ン・・・・


お客さんは苦笑すらしてくれません。
それどころかみんな氷細工のように呆然と立ち尽くしているだけです。
目に黒目はありません。生きている人間の姿は僕の目には映すことができませんでした。


「やっちまった・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そもそも、なんで「ロックをやらない」からってヒップホップだったんだろう。
自分で自分がわかりません。もう、壊れていた、としか説明が出来ません。
会場は氷の博覧会状態。
ドンが100個くらいつく大ドン引きです。
その光景をみて僕は、今生きている事さえどうでもよくなりました。
それから先はもうよく憶えてません。
とにかくめちゃくちゃをやりました。
5曲で約1時間近く演奏していたみたいです。
真っ白な灰になって楽屋に戻ると、植木君がものすごい顔で
「君はヤバイ!!すごすぎる!どうかしてるぜ!!」と握手を求めてくれました。
続いてキングブラザーズのケイゾウさんが、シンジさんが口を揃えて
「すごいものをみせていただきました」ととても腰を低くして言ってくれました。
あの狂犬達が、そんな事を口にするなんてにわかに信じられませんでした。
でも僕は灰になっていたので心はここにあらず、
そのまま楽屋の椅子に倒れ込み、しばらく呆然としました。
後悔すればいいのか、反省すればいいのか、
そんな事をするのもばかばかしい気分。
気がつけば次のLINKのステージが始まっている。
彼等はとてもストレートにまっすぐにロックを鳴らしていて、
その爆音だけが僕を癒してくれるのでした。
そしてLINKのライブが終わり、最後は出演者全員でセッション大会がスタート。
曲は「ツイスト&シャウト」。のっけから誰一人としてまともに演奏する気は
ありません!まさにステージ上は地獄絵図。
でも最高に楽しかった!!!!


そんなこんなで終了予定時刻を大幅に遅れ、弘前の夜は無事(?)に終了したのでした。


そして打ち上げでは僕のライブに対しての千葉さんによる賞賛の言葉が。
僕は複雑な気分でありながらも、嬉しかった。
でももう、あんなライブは出来ないだろう。
色んな意味で。
僕の中でもこの日のライブは最高で最悪な伝説のライブとして記憶に残り続けるだろうなあ。
でも、楽しかった。
この3日間、ありえないくらい充実した。
こういう経験が出来る事は僕にとって宝だと思う。


ライブに来てくれた皆さん、セッチュ−千葉さん、スタッフの皆さん、共演した皆さんに
本当に感謝です!!!


この日は僕はやはり酔いつぶれてしまい、カプセルホテルで一晩過ごしました。
朝方入ったお風呂の窓から見える朝焼けの弘前の街並みはとても美しかった。
またかならずこの街に来て、いいライブをやろう!と心に決めて
僕は眠りについたのでした。



この日のBGM LINK「GOLD FIELD」